久しぶりに読んだ森見さんの「熱帯」がおもしろかったので、読んでなかった「夜行」を読んでみました。
はっきりいって、こっちのほうが好き!というか大好きな感じの話だったーーー!!
英会話スクールの仲間たちと行った鞍馬山の火祭りで、突然行方が分からなくなった長谷川さん。それから10年。主人公の大橋はもう一度祭りに行こうと、かつての仲間を呼び寄せます。ところが仲間たちは岸田という作家の銅版画にそれぞれ思い当たりがあるようで…というお話。
ここからちょいネタばれ
各章に分かれて各々岸田作品と出会ったいきさつを話し出すのですが、それぞれのお話がまた、ダークで…どんどん闇に沈んでいきそうな、そんな話が続きます。
妻とよく似た女が住む家。旅という閉鎖された空間で「二人死ぬ」と予言を受ける話。燃える家、少女と坊主…全て悪夢の中でぷっつりと終わるようなそんな話。
岸田の銅版画には「夜行」のほかに「曙光」もあるという。けれども主人公とそこで語られる仲間たちの話は「夜行」の世界。「曙光」の世界では失踪していたのは自分で、いなくなったと思った長谷川さんは岸田と結婚し幸せそうに暮らしている。暁光の、その世界が明るすぎて、暗転していく際には「やっぱりあの明るい世界は違うんだ」と思ってしまいました。「夜行」と「曙光」の間に明確な線はなく、ふと気づいたら「夜行」の世界にいた…そんな恐ろしさがあるお話でした。
仲間たちの語る話にオチがないという意見もあるようですが、怪奇の話なんだからつじつまが合わなくていいんじゃないかなー?あんなふうにオチがなく終わっていくところが逆に、夜行の世界が無限に続いているようで私は好きです。
そして最後に主人公がいるのはどの世界なんだろう?また夜行に戻った?夜行の世界にも朝がある?夜行でも曙光でもない真ん中の世界?パラレルワールドなお話でもあり、森見さんの中では一番好きなお話でした。
しかし、この装画と帯はあまりにも話の内容とかけ離れていないか?と個人的に思うのですけど。