6月の読書会以来、アガサクリスティをちょこちょこ読む機会が増えてまして、「そして誰もいなくなった」を再読することに。
何気なく表紙を眺めていると、そこに書かれているのは「TEN LITTLE NIGGERS」の文字。
ん?ニガーって書いてある??
衝撃…のNワード…
Niggerは黒人を侮蔑する際に使用される禁句ワード。デカデカとこれを出版することなんかありえません。
ちょっとここで本の背景を説明すると、「そして誰もいなくなった」は孤島に集まった見ず知らずの10名が1人、また1人と殺されていくというお話。その際部屋に残されていた歌詞の通りに殺されていき、何故か10体の人形も人が殺されていくたびに壊されていく…というお話です。そしてここで登場する歌詞はクリスティが創作したのではなく、マザーグースの歌詞を引用しているとのことでした。
私が読んだ本の中では10人のインディイアンという歌。そして人形は10体のインディアン人形。ちなみに孤島の名前はインディアン島。
えー、じゃあこれって原作は10人の黒人って題名なの??ありえないーーー。
ということを考えているとたまたま長女が「ママの本と私の本、内容が違うよー」と一言。長女の本では歌は兵隊さん、人形も10体の兵隊。孤島の名前は兵隊島に!!
ちなみに原題はAND THEN THERE WERE NONEとなってます。
うーむ。マザーグースの歌から変更されてるの??そんなことってあるのかなー?
何かここが違ってきたら物語全体の雰囲気が変わってくる気がするんだけどなー。
と思って色々調べてみました。
まずこの本が出版されたのは1939年。「Ten Little Niggers」という題名でした。英国の後には米国で出版されたようで、翌年の1940年に米国で出版。当時ヨーロッパではNiggerはそこまで黒人蔑視の表現とはされていなかった様子。ところが事情が違うのは米国。この当時からNiggerはかなり黒人蔑視の表現とされていたことから、米国はマザーグースの歌の最後の部分を引用して「AND THEN THERE WER NONE」という題名に変更することとなりました。その後英国でもNiggerはよろしくないということで、Injunsに。内容もインディアン仕様に変更。そしてまあこちらも段々よろしくない表現となり、今では「兵隊」、題名は「AND THEN THERE WER NONE」に変更されているようです。
じゃあ原題の元となったマザーグースはというと、こちらはマザーグースに分類していいのかと言われているくらい新しく、作者もはっきりしている歌のようです。
1868年にアメリカのセプティマス・ウィナーという方が発表し、翌年イギリスのフランク・グリーンが歌詞を書き換えしているみたいです。
最初のセプティマス・ウィナー版はインディアンのTen Little Injunsという題名でしたが、イギリスのフランクグリーンがTen Little Niggersに変更しているみたいですね。なのでクリスティは英国版マザーグースを踏襲した模様
ということで内容はNigger→Injuns→Soldiersと遍歴があり、題名も今ではAnd Then There Were Noneに統一されているみたいです。
ちなみに私が読んでいたのは1991年出版のハヤカワ文庫。長女は同じくハヤカワ文庫から2010年出版の物です。その間ほぼ20年…インディアンもダメになるわなー。
一見同じですが表紙の文字も変更されてますね。
内容は兵隊だけど、表紙はインディアンのままなんだよな。でもこの表紙好き。
うーん、最初にインディアンで読んでしまってるので、兵隊さんで変更されていると何だか違和感を感じてしまいます。当時の人はどう感じたでしょうね。しかしこの題名を「And Then There Were None」に変更した人はすごいな!「そして誰もいなくなった」…素敵すぎるでしょ。クリスティの題名は本当にどれも逸品です。
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